神戸女子短期大学紀要「論攷」
神戸女子短期大学紀要「論攷」は、神戸女子短期大学における学術研究活動の成果を広く世の中に公表することを目的とした学術出版物です。
最近の情報通信技術の発展に伴い、より多くの研究者に神戸女子短期大学の研究成果を知って頂くため、2002年からはインターネットを利用した電子出版を開始いたしました。
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論攷 第50号
<総説> 熱中症とその語源
森本 武利
要旨
地球温暖化の進行とともに、熱波を経験する頻度が増加し、各地気象観測地点での最高気温も塗り替えられ、それとともに熱中症の多発が問題となっている。
熱中症に関しては情報が随分行き渡ってきたが、なお専門家の中でもその理解に混乱がある。そこで熱中症の発症機序を病態生理学から述べるとともに、暑さによる障害の名前の変遷と問題点、熱中症の発生状況の変遷と今後の問題点などについて解説した。
<総説> 新しい教育の胎動-情報通信技術と教育ルネサンスの歩み-
浅木森 和夫
要旨
20世紀から21世紀にかけての情報社会形成とともに、社会のパラダイムシフトが起こりつつある。それと同時に教育においても「教える」から「学習する」への概念進化が進行している。高度情報社会におけるIT技術の進展は新しい学習の形e-Learningを創造し、教育の進化を加速し始めている。ここでは、急速に広がりつつあるe-Learningについて現状を概観するとともにその課題、方向性についてまとめてみる。
<報文>
幼稚園における絵本の読み語りに関する研究(3)−計画的に指導を進めるための課題−
長瀬 荘一、幸本 由紀子、富本 佳郎
要旨
幼稚園における絵本に関する指導は、重視されているほどには計画的に行われていない現状にある。本研究ではそれを計画的に進めるための課題として、指導の意義と目標の明確化、指導時間の計画的設定、指導の場の環境的整備、指導方法の工夫・改善、絵本の選定・充実と利用法の改善、家庭における実態の把握などについて検討し、幼稚園の教育課程の中での絵本の指導の位置付けと小学校教育との連携について考察した。
<報文> 原料乳の異なったヨーグルトの成分組成とミネラル含量の変化
田中 智子、逵 牧子、森内 安子、森下 敏子、茶山 健二
要旨
市販ヨーグルトの乳酸菌を利用して、発酵温度40℃5%加糖ヨーグルトを調製するときの脱脂粉乳調製用の水の種類と原料乳の違いによる成分組成とミネラル含量について検討した。
その結果、調製水による違いは、酸度、糖度、pH、硬さおよび官能検査での違いは見られなかった。しかし、ミネラルはボルビックで調整した場合のカルシウムが高かった。
原料乳による違いでは、酸度の上昇は脱脂粉乳、低脂肪乳、普通牛乳の順であった。カードの硬さは脱脂粉乳、低脂肪乳、普通牛乳の順で低くなった。また、いずれのミネラルも脱脂粉乳が高く、低脂肪乳、普通牛乳の順であった。さらに官能検査の結果、普通牛乳でなめらかさ、口当たり、総合評価において有意水準5%で好まれた。
<報文> An Analysis of “A Tale of Two Liars” by Isaac Bashevis Singer
谷山 澤子
要旨
In this story,Singer’s narrator is the Satan.He tells of how he manipulated two deceitful people so that he destroy themselves through their own lies.Glicka Genendel and Reb Yomtov both gain wealth and social esteem by telling lies.Satan manipulates their minds to lie to the community about who they are.Thanks to their lies they marry each other and deceive one another,which ultimately brings them to a bad end when they are hung as criminals.They go to Purgatory (Gehenna) to atone for their sins.As in other stories, Singer argues that evil is the absence of order and is,tberefore,self-destructive.In this story he argues for the existence of Satan as a moral necessity: Satan encourages evil behavior which leads to its destruction and,thus,the triumph of good.
<報文>
ベルカント・オペラでのガエターノ・ドニゼッティとオペラ「ランメルモールのルチア」についての一考察
宮内 真知子
要旨
ドニゼッティは70曲のオペラを残し、18世紀ナポリ楽派がオペラ・ブッファで究めた事を、オペラ・セリアによって英雄や悲劇の人物を芸術性の高い作品に変革させた。
そして、歴史的歌唱スタイルによる超絶技巧の華麗さとロマン的劇的表現で、ベルカント・オペラのオペラ・セリア様式の最高峰となる「ランメルモールのルチア」を作曲し、ヴェルディへの先駆けとなった。
<報文> インタビュー番組における「言い換え」についての一考察
岩中 貴裕
要旨
自分の発話を柔軟に言い換えるという能力は我々がコミュニケーションを行う際に必要不可欠である。学習者のコミュニケーション能力を向上させるためには言い換えのメカニズムを明らかにしなくてはならない。本論文の目的は、母語話者が自然な発話場面でどのように言い換えを用いているかについて考察を加えることである。分析のための理論的枠組みとして関連性理論( Relevance theory )を利用する。
<報文>
女子学生の身体活動量と栄養摂取状況
−平成15年度看護系大学入学生における調査結果−
糸井 亜弥、木村 みさか
要旨
若年女性の身体活動量、生活時間および栄養摂取状況を明らかにすることを目的に、2003年4月下旬、看護系大学に入学した女子学生65名を対象に調査を行った。対象者は適正体重を維持し、適度な活動量を得ている者が多いが、栄養摂取状況においては問題が多いことが明らかになった。
<報文>
小学校における俳句教材の在り方について‐平成十七年度使用予定の教科書を中心に‐
入江 昌明
要旨
小学校では平成十七年度から新しい教科書が使用されることになっている。その新しい国語の教科書に収載されている俳句作品の検討を通して、小学校における俳句教材の在り方について考察した。これまで俳句指導は小学校から高校まで名句を理解・鑑賞させる方法で行われてきたが、小学校でそうした指導方法を採る場合、よほど慎重に俳句作品を選定しなければ、それが仇となり俳句嫌いの児童を作り出してしまう惧れがある。
<資料> 日本の伝統的な漁村「伊根」における魚介類の利用
片寄 眞木子、川原崎 淑子、冨岡 和子
要旨
2003年9月、伊根町居住の10人の主婦に、魚介類の利用についてのアンケート調査を行った。10世帯で用いられていた魚介類の種類は54種、魚介卵4種と練り製品3種であり、魚介を用いた料理数合計は962であった。ほとんどの世帯で、多くの料理に使用されていた魚介類はいか類、あじ、いわし類、さば、かわはぎ類、とびうお、たちうお等であった。調理法別にみると、なま物、焼物、煮物、揚物、汁物、漬物、飯物、茹物、蒸物の順に多かった。この地方の伝統的な料理にはきりめいか、あじ・いわしのたたき、あなごのにこごり、しめさばとれんこだいの笹寿司、へしこ(糠)漬けなどがあり、主として行事食や客料理に用いられていた。
<資料> 栄養指導実習における試み(実践報告)−幼児・学童期対象の栄養教育−
山本 隆子、伊達 佐和子
要旨
近年、幼児や学童期の「食教育」が重要視されてきている。2004年度の栄養指導実習では「食教育」の一環として、特に食品の知識や地球汚染のごみ問題を取り上げて演じ発表や媒体作成に取り組んだ。学生らの積極的な取り組みで、色々なアイデアを取り入れた作品が出来上がった。媒体は指導目的に合った内容でなければならないが、興味を惹き付ける作品としての魅力も要求される。そこで専門的な立場からのアドバイスも受けて、この度の作品を完成させた。
<資料> 四世代住宅の設計
本保 弘子
要旨
孫夫婦と曾孫が住む既存部分も含めて、四世代が敷地内に同居する住宅を設計した。子供夫婦と77歳の母親の希望は、お互いの生活を干渉しない、子供夫婦の希望は高齢となった母親を見守りたいであった。この希望にあわせて母親の居室と子供夫婦が主に使う部分とを別棟として廊下で繋ぎ、母親の居室と縁側、子供夫婦のLDKを共に中庭に向ける開放的な配置とした。
<ノート> 酸味物質の利用による食品中の一般細菌数の変化
逵 牧子、田中 智子、森内 安子、森下 敏子
要旨
酸味物質であるレモン果汁、スダチ果汁、ライム果汁および食酢を、魚、鶏肉、市販のカット野菜に使用することにより食品内の一般生菌数の変動について検討した。その結果、魚は、食酢とレモン果汁の配合割合が8:2で浸漬した場合、塩5%のみに比べて1/1000減少した。鶏肉に対しては特にライム果汁が食酢と同レベルの一般生菌数減少がみられた。カット野菜ではレモンとライムが食酢と同様または食酢以上に滅少したが、スダチは1オーダーレベルの減少にとどまった。
<ノート> 多人数同時実習の中で個人指導を実現するための取り組みとその効果
松井 由佳子、浅木森 和夫、田中 真由美、平田 真弓、康 敏
要旨
コンピュータ基礎演習では操作能力の個人差が強く出るため、1対1での対応が望ましい。しかし多人数では困難なため、同時演習で個人指導に近付けるよう、各自がそれぞれの進度に合わせて演習出来るような完全自習教材を導入した。その取り組みと効果について報告する。
<翻訳> P.B.シェリー作「キリスト教について」
上野 和廣
要旨
1817年の作と言われている未完の散文、「キリスト教について」の翻訳である。キリスト教に関する問題は、シェリーの詩作の原点の一つであるが、彼の詩は非常に抽象的で捉えどころのない作品が多いため、詩作品から彼の思想を辿ることは非常にむずかしい。しかし、散文ではある程度自分の考えをまとめて書いているので理解しやすい。そこで、今回はキリスト教に関する彼の考え方をもっとも包括的にまとめてある散文、「キリスト教について」を翻訳し、彼の詩作品解読の手がかりとした。