実践的な看護の力が育つから、
いま現場でも力強く働くことができている
実践コミュニティをテーマに行われてきた看護セミナーの第6回目は、「学びのグループゼミ」に焦点を当てて開催しました。現在(2022年3月)、3期生までが卒業した看護学科ですが、集まってくれたのは卒業生4名。看護師・保健師として働くそれぞれの現場は実に様々で業務も求められる能力も異なりますが、そこには、大学の学びから得た共通する想いが生きていました。
神戸女子大学看護学部看護学科の特色となっている「学びのグループゼミ」は、1回生から4回生までの異なる学年の学生が、実習体験を共有する授業です。病院実習での体験を発表し合うことを通して看護の知識を高めながら、人前で話す経験を重ねてコミュニケーション能力を育んでいます。看護学科での学びが、いま看護の現場でどのように生かされているのか。様々な環境で奮闘する卒業生たちの姿を追いました。
玉木先生
日々の看護の実践の中では、本当にいろんなことが起こると思います。卒業してからそれぞれが特に印象に残っていることはどんなことでしょう。
Aさん
いまでも心に残っているのが神経難病の患者さんを看護した時のことです。だんだん悪化していくという病気の特徴から、良くならないということに、患者さん自身が気づき始めるタイミングがあるんですね。その方もちょっとずつお気持ちが下がっていくのがわかりました。当時2年目の私にできたことは、本当に話を聴くことばかりで、患者さんが話せるタイミングで傾聴を続けていました。患者さんにとって、本心を言葉にするってすごく難しいことだと思うんです。その時も話してくれた言葉をもう1回言い返してみたり、違う言い回しで語りかけてみたり、なんとかして患者さんの本当に言いたいことを知りたいと話を聴いていました。そこでの話を患者さんに了解を得て看護師間で共有させてもらい、どういう気持ちで過ごされているのかを大切にしながら病棟全体で支えようと努めていました。そういう関わりをしたのがその方が初めてだったこともあり、とても印象に残っています。
玉木先生
丁寧に患者さんと向き合うには、ものすごくエネルギーが要りますよね。そこに正面から向かっている姿が、素晴らしいなと思いました。
Bさん
私が出会った患者様で骨髄移植を控えている方がいたのですが、本当に温厚な性格で、私たち看護師にも気をつかってくれるような方だったんです。ただ、いざ移植の段階になると、次第に不安が高まっていき、後ろ向きな発言も多くなっていきました。それに対して私は、励ましの言葉をかけることは逆効果ではないかと思って、患者さんが落ち着くまでそばにいるという感じでした。治療後の経過は良好で、患者さんからはいつも話を聞いてくれてありがとうと言っていただきました。私はそばにいて話を聴くだけでしたが、それでも看護師として寄り添うということが、決して言葉をかけるだけではないんだということに気づきました。
玉木先生
Aさんの経験にも通じるところがあるけれど、このような状況で話を聴くには、すごくエネルギーが必要だったと思います。患者さんのそばに居続けることができたのはどういった気持ちからでしょう。
Bさん
やはり、その患者さんとはそれまでも何度も話をしてきたので、不安や副作用などに耐えられずに苦しんでいる姿を目にした時に、うまく言えないのですが、移植に至るまでの頑張りを知っている人がちゃんといると思ってもらうことが必要だと思いました。私がその場から離れてはいけないと思ったし、私がその場から去ることで、さらに精神的に追い込まれてしまうのではないかと想像しました。
玉木先生
Bさんの患者さんと向き合う覚悟が感じられるエピソードですね。
Bさん
昨日まで元気だった人が急に容態が悪くなることも多いので、患者さんには1日1日が勝負の連続。だからこそ、逃げずに向き合っていこうと思うようになりました。
Cさん
私は、もともと母子分野に携わりたくて保健師になりました。私が担当している地区は、出生数が数えられるくらい少なくて、地区内だと皆さんの顔がわかるほどです。様々なご家庭を訪問する中で、産後うつに関してはやはり保健師が関わることがとても大事だという思いが強くなりました。電話でのフォローや訪問の継続などで支援をしていくのですが、そういった方で次第にうつ症状が強くなっていくという事例を目にするようになり、客観的な関わりだけでなく、生活の中に入り込んで支援をしていくことの重要性を感じた日々でした。
玉木先生
私の専門分野でもあるのでいろいろと聞きたいのですが、保健師がどのように関わることが大事だと思ったのでしょうか。
Cさん
はい、これは私が大切にしていることにつながってくるのですが、やはり保健師って相手から求められて関わるわけではないので、そこが病院の看護師とは違うところです。うつ症状が良くなったとしても、お母さんたちは生活の中の子育て以外の不安や困りごとも影響していると捉える方もいて、自分が産後うつのリスクがあるから関わってほしいとわざわざ言ってくるわけではありません。それぞれの状況を見ながら、保健師が産後うつのリスクがあることを察知して関わっていく必要があります。お母さんが「不安になる」という項目にチェックを入れたとしても、お子さんの将来が心配だとか、旦那さんが全然協力してくれないとか、不安にもいろんな種類があります。それを一つひとつ言葉にして、どこまで同じレベルで不安を共有できるか。それができてはじめて相手の中に、わかってくれたんだという気持ちが生まれて、こういうことに困っているとか、ちょっと言えないような悩みなど、本当の根本の部分を話してくれるようになったりします。
Dさん
私は、患者さんとの距離感を大切にしていて、なるべく看護師と患者というはっきりした壁を作らずに何でも話せるような距離感を保てるよう心がけています。例えば、治療に関するしんどい話を聞いた方には、私はなるべく楽しい話をするようにするなど、バランスをとって話すことを大事にしています。
玉木先生
現場に立って働く中で、大学の学びが生きていると感じるのはどのような時でしょう。
Aさん
大学では、患者さんが本当は何を思っているのか知ること、傾聴することの大切さなど、そういう面にフォーカスを当てた意見交換が多かったという印象を持っています。話を聴くこと、ただそれだけでもケアになるというのは、4年間で得た学びの一つ。だから、傾聴しかできない時でも、それ自体が患者さんにとって大事なことなんだという想いで、いま働けています。さらに私がいる病棟は、自分で言葉を発せない方や文字盤を使ってコミュニケーションをとる方もすごく多いんです。患者さんがどう思っているか、何を言いたいんだろうかというところに目を向ける機会はいっそう増えていて、ここでも学生時代の学びが生きているように思います。
玉木先生
傾聴も看護師だからこそできる大切なケアですよね。そういった姿勢は、「学びのグループゼミ」でのどんな経験が生かされているでしょう。
Aさん
「学びのグループゼミ」は年代の違う人たちが集まる意見交換の場だったので、違う視点を持つ人の話が聞けることや経験値の違う1回生にもわかってもらえるように話すとか、コミュニケーションの姿勢を学べたと思っています。現場に出ると1人で完結することは本当になくて、看護師間のカンファレンスの機会もたくさんあります。大学時代の「学びのグループゼミ」やグループワークで意見を出し合うことに慣れた経験がいまとても生きています。
Bさん
私の中では、振り返る力がいまの仕事につながっていると感じています。大学の時の実習でも、自分たちで看護計画を立てて、実践して振り返り、カンファレンスで共有する場面がたくさんありました。現在も、患者さんやスタッフと何度も話し合って計画を立てていくのは同じです。
玉木先生
いま、その時の学びが成長に役立っていると感じますか。
Bさん
そうですね、「学びのグループゼミ」では、実習経験をグループワークで話し合って、そこで得た意見をまた次の実習に生かすという機会が何度もありました。看護師になってからも、自分の発言が患者さんにどう影響したのか、自分の行動は果たして良かったのかとか、自分の中で振り返ることを本当に大切にしていて、それは大学での学びによるものだと思います。副作用症状の緩和などは薬でできるものもありますが、精神面ではお声がけとか、看護師の行動でしかケアできないこともあると思うので。
玉木先生
いま言われて、「学びのグループゼミ」が振り返ることの大事さを学ぶ場でもあったんだと気づかされました。
では、次はCさんにお聞きます。先ほどの母子の例からも、すごく丁寧に対象者さんと関わっている印象を受けました。いい関係性を築いているから、お母さんも最初は言えなかったことを伝えてくださったりするんだろうなと。そういった関わり方は、大学での学びも影響を与えていますか。
Cさん
「学びのグループゼミ」の時に、どの人と関わる上でも、自分が教えるのではなくて教えてもらうという姿勢が大切だということを学んだので、上から目線にならないような「聴く姿勢」は大事にしています。住民の方と話す時も「それ私も知らないから教えてほしいです」って言うと相手は話しやすくなるし、話す中でその方自身も意識していなかったことをポロッと言うことがあって、自分の話からご本人が新しい気づきを得ることがあります。私の考え方が全てじゃないし、他の人の考え方を知りたいっていうような姿勢は、いつも持っていたいなと思っています。
玉木先生
相手の話を聞くことによって自分を省みることができるということが、学生の時にもしっかり経験できていたということですね。
Cさん
そう思います。それと、1回生と4回生が一緒に話す機会は、4回生にも良い影響を与えていると思います。実習の体験を話す中で泣けちゃうようなお話をしてくれる1回生がいる時に4回生は自分たちもそうだったという気持ちになれます。医療職って、知識はとっても大事だけど、それだけじゃなくて、普通の感覚を忘れちゃいけないと思っていて、知識では片付けられない、初めて看護を学び始めた頃の感覚に戻れる機会があったことはとっても印象深く残っています。
Dさん
私が大学時代の「学びのグループゼミ」で得たのは、コミュニケーション力ですね。学生の時にいっぱい喋る機会があったから人と関わる力や発信する力が身についたねと、大学時代から仲が良い友人といまも話しています。他の学校出身の人に聞くとそんな機会はなかったと言われますし、学年を超えた縦割りの授業も珍しいと言われます。
玉木先生
その時に得たコミュニケーション力は、卒業後も自分自身の成長に繋がっていると思いますか。
Dさん
繋がっていると思います。やはり看護師はコミュニケーション力がなにより大事だと先輩にも言われていて、技術や知識は少しずつついてくるから、とりあえず話せないといけないというふうに教えられてきました。そこを4年間の学びを通して培っていけたことでいい技術を身につけた状態で職場に入れたと思っています。4回生の時のことですが、授業の後に4年生同士で「あの話、絶対1回生に伝わってなかったよね」という話をして、次はどうやって伝えようかを考えていたのを覚えています。いま思うと、それってすごく良い機会ですよね。それに近い出来事は働いてからもたくさんあって、後輩指導の時に「どうやった」とか「さっきのわからなかったよね」って話かけたり、後輩たちがどう思っているかを自然と考えている自分がいます。
玉木先生
これから神戸女子大学で看護を学んだり、看護の道を目指す学生へ向けて、いまたくさんの経験を積んでいる皆さんからメッセージをお願いします。
Aさん
これから神戸女子大学で学ぶ皆さんは、「学びのグループゼミ」などで自分が話す立場になった時にすごく緊張すると思うのですが、うまく話がまとまらなくてもいいから自分の思っていることを言ってみることに挑戦してもらいたいです。言葉がするすると出てくるようになってくると、実習の経験がよりスッと自分の中に入ってきたりするので、緊張するけど、まずは話すことから頑張ってみてください。聞く側の時は、先輩の話は後々自分が経験することに繋がってくるので、先輩がやっていたことを盗んで生かしてもらえたらと思います。
Bさん
学生として学ぶ皆さんは、これから実習を数多くこなすと思うのですが、患者さんに対する行動って一つの正解があるわけではないと思うので、思い切って実践してほしいです。その経験をゼミの中で共有して周りから意見をもらうということは、自分が成長できる本当に大事な場面であるし貴重なこと。そういった授業で、恥ずかしがらずに積極的に発言していったら、どんどん自分の学びに繋がっていくと思います。
Cさん
「学びのグループゼミ」には聞いてくれる人がいて、それを共有できる場があるので、そこでしっかり自分の気持ちや想いを伝えていってほしいです。そうすると仕事をしてからも、その想いっていうのは絶対忘れないと思うので、それを生かしていくことができるのではないかと思います。あとは、保健師は看護師に比べると時間的にも余裕があるので、一対一でしっかり向き合える職種なのですが、看護師として働いている友達の話を聞くと忙しさの中で、それが難しい時もあるという話を聞くことがあります。今日それぞれの話を聞いて、学生の時の根本的な学びをしっかり持ち続けて働いているのはとてもすごいなと思いましたし、私もそれを忘れずにいきたいと思いました。
Dさん
私はコロナ禍になって、病棟に来る実習生たちの実習の機会がすごく減って、気の毒だなと思っているんですけど、だからこそ、一つひとつの機会を逃さずに大事にしてほしいと思います。そして、皆さんには学年を超えて学び合えるすごくいい環境があるので、仲のいい先輩、同期、後輩を見つけて、いっぱい話をするとか、いろんな情報を集める場にしていってほしいと思っています。
玉木先生
卒業してから、みなさんがこんなににも成長したのかと驚きました。日々、いろんなことをすごい勢いで吸収していっているんでしょうね。丁寧に日々実践していて、本当に感動しております。本日はありがとうございました。
※インタビューは、2021年8月時点のものです。