2023年5月8日
学長 栗原 伸公
副学長(研究・情報担当) 山根 千弘
1.はじめに
ChatGPT等の生成系AI(以下、「AI」は特に断りのない限り生成系AIを指します)の普及はもはや不可逆なものと考えられます。社会におけるAIの利活用は今後ますます進むと予想されるため、わたしたちはAIを使いこなすスキルを身に付ける必要があります。
人材育成を通じた社会貢献を使命とする本学としては、皆さんに社会で求められるスキルを身に付けてほしいと考えています。そのため、授業内外の学習において一概にAIの使用を禁じることはしません。積極的にAIを使用することで、AIを使いこなすスキルを身に付けるとともに、学びの質を向上させることを期待しています。
例えば、グループディスカッションに際して、あらかじめAIに論点を整理させることで、スムーズに議論を始めることができるかもしれません。また、議論の結果をAIに検証させることで、補完すべき視点を洗い出せるかもしれません。
適切に使用することでAIは有用な学習ツールになりえます。そして、我々教職員は皆さんがAIを活用し効果的に学習するための支援をしていきます。
2.生成系AIを使用することのリスク
しかし、AIの不適切な使用はむしろ学習の妨げになる恐れがあります。例えば、以下のような知識や能力の修得が阻害されるリスクがあります。
・知識・理解
AIが生成した情報は誤っていたり偏っていて不適切なことが往々にしてあります。正しく適切な情報と区別することができない場合は、結果として誤った知識・理解を身につけることになりかねません。
・論理的思考力
AIが生成した回答を鵜呑みにすることによって、論理的思考力の修得を阻害される可能性があります。AIに依存してしまうと、自分の頭で考えることがなくなり、自分の考えを発展させることができなくなる可能性があります。
・文章表現力
自分で調べたり書いたりすることなくAIが生成した答えに頼ってしまうと、自分の考えを文章で表現する練習をする機会が減ってしまいます。また、文章に推敲を重ねることで身に付く論理的思考力等の修得を阻害しかねません。
・情報収集力・分析力
情報の収集や分析のプロセスが疎かになってしまう可能性があります。その結果、情報収集力や分析力といった課題解決に必要な能力の修得が阻害される恐れがあります。
・コミュニケーション力・協働性
学生同士の協働を阻害する可能性があります。AIが生成した情報だけに頼っていると、学生同士で情報を共有し議論を交わす機会が失われる恐れがあります。
また、AIの使用には、学習に関係するリスクだけでなく、以下のような情報倫理上のリスクも伴います。
・情報漏洩
ChatGPT等の大規模言語モデルによる生成系AIは、利用者が入力したテキストデータを学習し、回答を生成します。そのため、個人情報や非公開情報を入力してしまうと、AIが他の利用者への回答の一部としてそれを出力し、情報が漏洩する危険があります。
・権利侵害
AIが生成したテキストには他者の著作物の一部が含まれる可能性があります。そのようなテキストを安易に使用(転用)すると、盗用や著作権侵害になる可能性があります。なお、この危険は画像や音声を生成するAIでも指摘されています。
3.生成系AI使用時に求められる姿勢と禁止事項
上記のようなリスクがあることを踏まえ、皆さんには以下のような姿勢が求めます。
・安易にAIに答えを求めるのはやめましょう
問題を解く前にこっそり答えを見ることと同じで、何の意味もありません。これまで通り、まずは自分の頭で考えてみてください。
・AIの限界を認識しましょう
複雑な事柄や専門的な知識が求められる事柄については、誤った情報が出力される可能性が非常に高く、AIを使用すること自体が不適切です。これは、その事柄に詳しくない一般人に質問をするようなものです。さらに言えば、AIは口の上手い詐欺師のように「それっぽく」回答するので、ことさら注意が必要なのです。
・AIが生成した情報を批判的に評価し、他の情報源と照らし合わせて正確さを確認しましょう
たとえば公的機関や専門家による報告書、学術論文、専門書等が信頼性の高い情報源とされています。また、幸いなことに本学には沢山の専門家(教員)がいます。情報の真偽について判断に迷うことがあれば、教員に積極的に質問してみてください。このような真偽の検証を通じて、知識や理解が深まっていくはずです。
・自分の学習をAIに肩代わりさせるのではなく、学習を補完・強化する形で使用しましょう
レポート課題を例に挙げると、テーマのみをAIに入力して自分の代わりに文章を作成させるような使い方は、学習の面でも情報倫理の面でも大きな問題があります。このように使うのではなく、たとえば自分自身で作成した文章をAIに入力し校正させる程度に留めましょう。ただし、この場合も校正の内容が不適当である可能性もあるため、鵜呑みにしないよう注意してください。
また、以下の行為は厳に慎んでください。
・AIに個人情報や非公開情報を入力すること
上で説明したように、情報が漏洩するリスクがあります。
・レポートや論文等をAIに作成させること
いわゆる「コピペ」で作成することと同じで、皆さん自身が作成したものでなければ成績評価の対象になりません(懲戒処分を受ける可能性もあります)。また、あらかじめ認められた範囲でAIを使用した場合には、その旨とどのように使ったのかをレポート等の中で必ず示してください。
4.最後に
AIが示す情報に対して、その真偽を判別できるだけの専門知識や、批判的に吟味し必要に応じて修正を加えられる論理的思考力等を持ち合わせているならば、AIは良きパートナーになることでしょう。
しかし、皆さんは本学での学びを通じて、そのような知識や能力を身に付けようとしている最中であることを忘れないでください。これこそが大学で学ぶ意義です。適切にAIを使用しながら、大いに学んでください。皆さんがよき学習者であることを期待します。
※この生成系AIに対する考え方は、技術の進歩やそれにともなう社会情勢の変化に対応して、更新する可能性があります。