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神戸女子短期大学のEvents詳細

2009年7月16日

行吉学園創立70周年記念事業 神戸女子大学古典芸能研究センター特別講演会
「平家の魅力を神戸から」−ドナルド・キーン先生をお迎えして−

記念講演会開催に寄せて

神戸女子大学古典芸能研究センター長 阪口 弘之

行吉学園はこのたび創立七十周年を迎える。これを記念し、ドナルド・キーン先生をお迎えして、特別講座「平家の魅力を神戸から」を開催する。詳細は別に示した通りであるが、神戸という地は、とりわけ平家とゆかりが深い。ためにまた、源平興亡を賭けた合戦場と化し、多くの合戦物語がうみだされてきた。しかし、物語は決して勝者には光をあてない。敗れ去り、滅んで逝った人々の哀しみをあらがいがたい運命と見定める。平家の語り手達は、国を二分した歴史のうねりさえも、静かに仏教思想で染め抜き、日本人の心の深奥を揺さぶった。

「平家物語」は、権勢の移ろいを、まるで夢幻の一大絵巻と語り綴り、「源氏物語」と並んで日本文学の双璧を成す。「源氏」は、キーン先生らの世界へむけた発信を得て、今や世界的文学としての評価が高まる。かたや「平家」はどうであろうか。後世の芸文に与えた影響は、両作ともにはかりしれない。しかし、「平家」は「源氏」にない語り物の原点としての位置を誇る。謡曲を経て、幸若・浄瑠璃・説経・歌舞伎、そして諸々の芸文と、悉くその影響下に成立した。近松の名作とて、「平家」なくしては生まれなかった。「果たして近松は平家を超えたか」、私の脳裏を離れぬテーマである。彼の物した文楽(浄瑠璃)も歌舞伎も世界文化遺産に指定された。すでに日本の芸能を超えた。キーン先生はかつて「日本古典文学の鎖国は終わった」と断じられた。今回の記念講演は、その先生に、世界的視座から、「平家と日本文学」の魅力、更には「日本のこころ」を、「平家」ゆかりの神戸から存分に語っていただくべく企画したものである。

私どもの学園は、この源平ゆかりの地に七十年の星霜を重ねてきた。熊谷敦盛の合戦譚、箙の景季、重衡とらわれの松、その何もかもが、あたかも「学園の物語」のごとくにしてある。キーン先生も日米敵味方の戦いに身を置かれて以来七十年、戦後は、日本文学・文化の最高の理解者として暖かいまなざしを注いでこられた。その無二の戦友に、これまた日本の戦後新体制の確立に多大の貢献があったケーリ博士がおられる。本学ケーリ教授の御尊父である。今回のパネルディスカッションには、キーン先生とケーリ教授の本学催しならではの顔合わせも実現した。お二人は、未曾有の戦いを経ての現在の日本を、源平の戦いとその後の日本の歴史に、どのように重ね合わせておられるのか、今回の聴き所の一つであろう。

それにしても軍さとは無惨なものである。その哀しみがさまざまな後日譚を生み出した。争乱の世を駆け抜けた男達の野望は、しかし親や子、あるいは妻や恋人の止めようのない涙の種となった。たとえば熊谷と敦盛。それは親と子の物語として膨らみ展開した。「小敦盛」と「熊谷先陣問答」。子は亡き親を慕い、家を捨てた親を追う。哀惜と祈りの中で生まれた物語である。敦盛所持という須磨寺寺宝の「青葉の笛」も、高野に信仰を寄せた女人の想いを高野聖が語り広めたに相違ない。そして「一谷嫩軍記」は、子を先立てた男親女親それぞれの深い苦悩を鮮烈に浮き彫りにして、身代わり劇の最高境地を示す。人の世の絆の大切さを、本学は教育方針の根幹に置いてきたが、「平家」もまたその「絆」の重さを語るのであろう。「平家」はその意味では、「親子平家」「女人平家」の側面さえ持つ。

歴史と伝承、更にその物語化――パネルディスカッションでは、その往還の諸相を、キーン先生をはじめ、鳥越文蔵元早稲田大学演劇博物館館長、橋昌明神戸大学名誉教授ら、「平家」を語るにまことに多彩、望みうる最高の顔ぶれで、縦横に解きほぐしていただく。コーディネーターは、こちらも源平の遺蹟を様々に伝える生田神社の宮司、加藤隆久本学名誉教授にお願いした。神戸の歴史と芸能を語って、その右に出る人はいない。新知見を加え、多彩な切り口で、平家の魅力が存分に引き出される討議となろう。是非、多くの方々にご参集いただきたいと期待している。

なお、紹介が最後になったが、今回のプログラムには、筑前琵琶奏者の上原まりさんにも登場いただく。「平家物語」シリーズは、上原さんの代表演目でもある。琵琶の音色が平家への鎮魂歌とばかりに心揺さぶるであろう。こちらもお楽しみいただきたい。

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